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特集

21.09.10 

明るい部屋と暗い部屋 The sea where he came from Interview with ホンマタカシ

©︎Takashi Homma

ー今回、さどの島銀河芸術祭に参加された経緯をお伺いできますか?

2019年に佐渡で実業家で茶人「鈍翁(どんのう)」として知られた佐渡島出身の益田孝さんをしのぶ佐渡鈍翁茶会というのに参加する機会があって、そのときに芸術祭をやっていることを知ったんです。その時に、佐渡はキノコもたくさん生えてるし、菊竹清訓さんのモダニズム建築である佐渡グランドホテルが残っていたり、ネタがけっこうあるなと思って。僕が佐渡に興味を持ち始めた頃に、よく知っているキュレーターの菊田樹子さんと椹木野衣さんに声をかけてもらって、タイミングがちょうどあったという。

ー作品「暗い部屋と明るい部屋 The sea where he came from」についてお伺いしたいのですが、これまでも「暗い部屋」についてのスタディーを展示されていましたよね。

そうですね。暗い部屋はカメラ・オブスキュラ(壁の穴から部屋に入り込む太陽光を使って、穴の反対側の壁に屋外のイメージを逆さまに映し出す)のことで、丸亀でも去年の9月に展示しましたし、カメラ・オブスキュラの手法でどういうことができるかをここ5、6年取り組んでいるので、その延長線上でだいぶ理想に近づいてきたかなと。これまでも暗い部屋だけ、明るい部屋だけという展示はやってきましたが、今回の場所なら両方見せられるなと。隣り合わせに明るい部屋があり、暗い部屋から見える風景のプリントが飾れています。看板は大原大次郎さんにお願いしました。

ー会場である「藤九郎のワカメ小屋」はどうやって見つけられたんですか?

やっぱり、芸術祭をやるときは場所性が重要だと思っていて、サイトスペシフィックなものにはしたかったんですよね。そうじゃないと意味がないし、面白くないじゃないですか。まず何をやろうかなと考えて、カメラオブスキュラをやると決まったので、芸術祭の人たちと海沿いの建物を探していたら、ちょうどいいワカメ小屋があったんです。意外とないんですよね、海ギリギリに建てられた小屋って。大体、広場を挟んで建てられているので。

ー副題の「 the sea where he came from」のheは世阿弥を指しているそうですが、世阿弥というモチーフは最初から頭にあったのでしょうか?

カメラオブスキュラをやるにはどこが最適かを考えた時点で、世阿弥が流されてきた海っていうのは頭にあったかな。佐渡で世阿弥というと直球だし、過去に世阿弥を扱っている作家もいるけれど、能を広めた世阿弥という人が、70歳も超えて流されて佐渡にやって来た。その気持ちのほうに興味がありました。ジェットフォイルなんてない約600年前に、京都から福井県の小浜に出て、手漕ぎぶねで来るなんて、命懸けですよね。世阿弥以前にも、順徳天皇や日蓮聖人が流されていて、佐渡と京都の海路がそこまでちゃんとつながっていたんだということにも興味があったんですよね。

ーつまり、両側の部屋から見える佐渡の海は、世阿弥がそこからやって来たであろう景色なんですね。

そう。約600年というその時間をなんとかカメラオブスキュラという手法で感じられないかと。残念ながら、展示が終わったら撤去されてしまうんですけどね。

ー特に海の近くだと、自然の中で作品が変化していく面白みもありますよね。

小屋の中だから経年変化はそうそうしないけど、でもそれも見せたいなと思っていて。この前台風が来て、「小屋全体をビニールシートで覆いますか?」と連絡が来たんだけど、「いいよ、いいよ」って。結果、大したことなかったらしいんですが。

ー制作にあたり、佐渡には何度か足を運ばれたんですか?

下見も含めて5回くらい行きました。しかし佐渡は遠いね。東京駅まで30分、新潟まで1時間半、ジェットホイルで60分だけど、新潟駅から佐渡汽船までの移動と待ち時間があるから、結局4時間かかります。でも遠い分、実際に秘境感はあるんですよね。頼まれてもないのにキノコの撮影もやってたりするので、今回だけじゃなく、可能だったらまた制作を続けていきたいなと思ってます。

ー被写体としての魅力があるということですか?

被写体なのか風土なのか。結局、有名なところを撮影するとなると、確認作業になってしまう。もう既に知られていて、誰かが書いてあるものを確かめるというか。佐渡は日本の島で一番大きいだけあって、まだ発見する何かがある。それに、今はIターン、Uターンの人も増えていて、外国人も移住したりして、美味しいナチュラルワインが飲める店や面白い場所もじわりじわりできていますし、そういう意味でも面白いかもしれない。

ー佐渡を支配した氏族が本間家だったという歴史もあり、佐渡は本間という名前が多いそうですね。

ホンマという名前の店は多かったですね。声高に言うことではないですが、佐渡にルーツがあり、子どもの頃にも2回だけですが来たことがあって。当時は子どもなので、島流しの島だと思ってあまりいい印象がなかったですけど、世阿弥みたいに文化人とか政治犯が流されてるんですよね。失意で流された世阿弥が京都に戻れたのか佐渡で亡くなったのかはわからないままですが、佐渡はいいところだ、みんなに良くしてもらって食べ物も美味しい、と書いた手紙だけは残っている(笑)。それも面白いですよね。

プロフィール

写真家。写真集多数、著書に『たのしい写真 よい子のための写真教室』がある。 2019年に「Looking Through Le Corbusier Windows」(Walther König, CCA, 窓研究所)を刊行。2021年は、太宰府天満宮境内美術館にて展示「鬼と白い馬」(4月-8月)、NonakaHillにて展示「mush room from the forest」(6月-7月)を開催。TARONASU galleryにて展示「New mushrooms from the forest」(7月-8月)を開催予定。

Interview&Text:Tomoko Ogawa

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